貴方はとても暖かい




一緒にクエストに行く約束をぴょんとしていたあたしは待ち合わせの場所で待っていた。
時間が近づき、辺りを見回すとぴょんは走ってきてくれた。




「ごめん、待たせたか?」
「うんにゃ〜。あたしも今来たばっかだから。じゃあお宝捜し手伝ってよね」
「おう、任せとけって」



討伐クエストや回収クエストでなければ大人数でいく必要性は無い。
なるべく戦闘を避けて、目的のブツを探せばいいのだ。
だからあたしはよくぴょんと一緒に探索クエストに出かける。
流石にダンジョンに一人で行くにはまずいしね。


ほら、あたしってかよわいじゃーん?(笑)















鉱山に入ると荷物の中からホーリーボトルを取り出し、自分達に振りかける。
此処のモンスターはレベル低いからこれで充分でしょ。





「で、何を探すんだ?」
「今日はねールビーのブローチ!」












さすが、あたしとぴょんはクエストを組む機会が多かったお陰かなんの苦労も無くあっさりルビーをゲット。
後はこれを持って帰るだけなんだけど…。



あたしはふと自分のポシェットに手を当ててみる。

すると其処にあるべき感触が無かった。




「あちゃー…落としたっぽい?」

「ノーマ?」

「あ、ううんなんでもない。さあさっさと帰ろー!」



ぴょんにはなんとなく、心配をかけたくなかった。
あたしは笑顔を上手く浮かべられただろうか。













「じゃあ、お疲れ」
「うん、ありがと!じゃーね!」







街に戻り、解散するとあたしはもう一度鉱山へ引き返す。





あたしが落としたのはししょーから貰ったブローチだ。
放浪好きのししょーが旅の途中で見つけた石を加工しただけのものだけど





あたしの大事なものだった。




















「えっと…ここ通って、それから第二層に行ったんだよね…。う〜〜ん無いなあ…」




今日は結構鉱山内を回ったんだよね…。でもいつも落ちないのに無くなったってことは…




「あ、あん時かな」



一番奥で、宝箱を守るようにして立っていたモンスターとの戦闘。
結構激しく暴れたからあそこに落ちているのかもしれない。


「よし、行ってみよう」















第三層の一番奥、そこにはまたモンスターがいた。


「げっ!倒したのに…ちくしょ〜〜…あ」




モンスターの後ろにキラリと光る何か。
あたしが正に捜していたブローチだ。





「…最悪…。何かで注意を惹き付けてその隙に取るしかないか…」




近くに落ちていた小石を拾ってモンスターの真横に投げる。
案の定、それに気を取られてくれた。けれどまだあれじゃあ近づけない。

今度は少し離れた場所に石を投げてみれば、そちらの方へ動いてくれた。


今しかない!






「……あったぁ……。良かった〜〜〜…」



――グルルルル―――



「あれ?なんかいや〜〜な予感?生温かいものが当たるんですけど…」







ゆっくり振り返れば、目を血走らせた大きなモンスター。





「…嘘でしょ…」



























「ん?」

「どうしたの?

「いやなんか今叫び声みたいなもんが聞こえたよーな…」

「……アリエッタ何も聞こえなかった…です」

「僕も聞こえなかったよー?」

「マオとアリエッタに聞こえなかったのなら空耳では?様」


































「へっへーん大勝利
………あー死ぬかと思った」




なんとか逃げ回りつつも唱えた呪文が上手くヒットしてくれ、モンスターを倒せた。
伊達にトレジャーハンター何年もやってないってのよ!思い知ったか!?




「よっしゃ、これで安心して帰れるー♪さー帰ろ……」




ピシッ




再び嫌な予感。







ピシピシッ





頭上から聞こえてくる音。








此処は鉱山だけれど、奥に行けば行くほど“崩れやすいので危険”と言う注意書きがよくある。
モンスターが出ることもあってか奥は人があまり来ない為整備されておらず、脆い所が多々あるって………







「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」







狭い場所で術を使った所為で、周りの石壁が崩れ始める。

生き埋めなんて冗談じゃない!


石から逃げていれば出口が益々遠ざかり………











すっかり閉じ込められてしまった。











「…あうううう…。最悪だああ……。やっぱりぴょんについて来て貰えば良かった…」


そうすれば、あんな場所で大技なんて使わなくても済んだのに。

また崩れる危険性があるから術なんて使えないし……。




仕方なく手作業で岩をどけ始める。
けれどあたし一人の力じゃたかがしれていて、三十分程で体力を使い果たしてしまった。





「あ〜〜〜〜…。あたし此処で死ぬのかなあ…」



此処は鉱山の第三層の一番奥、故に誰か気付いてくれる可能性は低い。
誰かがクエストに来てくれれば良いが、そんな望みも薄い。



ぐったりと座り込んでいれば、瞼が勝手に下りてくる。



眠い………もう疲れた……





















「…マ」


「…ノー……」



「ん…」



遠くで誰かが呼んでる…誰?……ししょー?…






「ノーマ!!!!」


「ふわぃっ!」




目を開ければまだ暗い世界。
ああ、そうだった…あたし閉じ込められて………あれ?じゃあ今誰が呼んだ?





「ノーマ、聞こえる?!そこにいるのか?!」



「…ぴょん!?……あたしいるよ!!ここ、ここ!!」



あたしが背中を預けていた岩の隙間から聞こえた声。
それは正に救いの声と言っても過言じゃないと思う。




「待ってろよ、今岩除けてやるからな。ノーマ、何処か怪我してないか?」
「…ううん、それは大丈夫」
「よし、じゃあ…とは言ってもまた崩れたらヤバイな…。マオ、クラースさんかキール呼んで来てくれ。
 ノームで岩に穴空けてもらおう」
「おっけー!任せてよ。じゃあ行って来る!」





ぴょん…」


遠ざかる足音に少し心細くなり、声が震えた。





「大丈夫、オレは此処で一緒に待つから。ノーマ、意識飛ばさないように」
「………うん……」

「そうだ、テネブラエならこの岩すり抜けられるよな。あっち側でノーマに付いててあげて」
「わかりました」






暗闇の中から現れるテネっち。
これでまた孤独が軽減されて、落ち着ける。





「なんで一人で来たんだよ。言えばついてきたのに」

「いやー…クエストにも付き合ってもらったのに悪いじゃーん?それに凄腕トレジャーハンターのノーマさんなら大丈夫かなって」

「実際こうなっているわけですが」

「…うう…返す言葉もございません」





少しだけ呆れたような声。

アホな女と思われたかな。
手がかかる奴と思われたかな。


あ、どうしよう。
閉じ込められたことを今になって滅茶苦茶後悔してきた。




「ノーマさん?気分でも優れないのですか?」
「あ、ううん。大丈夫!」



ヤバイヤバイ、この暗い空間に長居しすぎたのかな。
すっごいネガティヴになってきちゃったよ。





「…、手痛くないですか?」



あれ?この声…リエちょん?(←アリエッタ)
一緒に来てたんだー…マオちぃだけかと思った。


ぴょんの手って…どうかしたの?




「ねえ、テネっち。ぴょんの手何かあったの?」

「テネブラエ〜?」




あたしがテネっちに聞こうとすると壁の向こうのぴょんから咎める声。
テネっちはびくっと体を震わせる。
けれど気になったあたしは小さな声でもう一回聞いてみた。




「何があったの?」

「………無理矢理此処を掘ろうとしまして。爪が剥がれてしまっているんです」

「…っ…!!!」




そんな…さっきはあんな冷静にマオちぃに対処法を言ってたのに…。
自分の手を痛める程、無茶してあたしを助けようとしてくれてたってこと?




…ごめんね。アリエッタが…回復術使えたら…すぐ治せたのに」
「大丈夫だよ、アリエッタ。アリエッタはテンパったオレを止めてくれたじゃないか」







『:やめて、…!!それ以上やったら…の手が…ふぇ』






「…アリエッタ、の手で撫でてもらうのが好きです…。の手がボロボロになったらしてもらえないです…」

「そうだな、アリエッタの綺麗な髪に血がついちゃうもんな」

「……そうじゃないです」





リエちょんの声はとても悲しそうだった。
あれは本当にぴょんのことを心配してるんだ。

…あれ、なんかモヤモヤする。









!呼んできたヨ!」


「大丈夫か、三人共!!」



戻ってきた声に考えが遮断される。
マオちぃと一緒に帰ってきたのはキールんだ。





キール!!早くノームで此処に穴開けてくれ!」
「落ち着け、!僕に任せろ。………気高き母なる大地のしもべよ、出でよノーム!」





“うおっしゃ〜。おれにまかせとけぇ〜”







能天気な声が響いたかと思うと、岩が勝手に動き出し人一人が通れるくらいの穴がぽっかり空いた。

そこから覗いた顔に思わず涙腺が緩みそうになった。





「ノーマ!」


「……っぴょん!」





暗闇の中にいたあたしに、光を与えてくれた。








穴を潜って出て行けば、暖かい何かに包まれた。
あたしの視界には驚いた顔のキールんとマオちぃとリエちょん。
背中に回された腕と間近で感じる心音で、抱き締められているというのが分かった。





「……二度とこんな無茶…すんなよ」

「……あ〜…うん……ゴメンナサイ」




そっと体を離される。
改めてぴょんの顔を正面から見た瞬間、あたしの心臓が五月蝿く鳴った。










「さ、帰ろ。ノーマも休まなきゃだし、オレもそろそろ手が痛え」
「な、なんだこの傷は!!傷口をずっと放置してたのか!?ばい菌が入って破傷風にでもなったらどうするんだ!!」
「ボクもクタクタだヨ〜。さ、帰ってご飯にしよー」




あたしは体力を消耗しているということで、テネっちに乗せてもらっている。
先を歩いている男三人組の背を見ていると、リエちょんが早足でぴょんを追いかける。



その時、すれ違う際にあたしの方を見たリエちょんの顔。






それはまるで嫉妬の表情。

あたしを一瞬睨んだかと思うとすぐ目を逸らし、ぴょんの方へ走り寄る。








以前二人を見た時は兄妹のようだと思った。
なのに、今は何故だろう。
そんな微笑ましい気持ちで二人を見れない。





「…あたし、よっぽど疲れてんのかなあ……」




その呟きは、自分自身に言い聞かせているようだった。